国家運営は民主的であるほど良いか?知性主義者の見解、及び阿呆共鳴現象を叩き潰す方法(中編)

前記事では、新自由主義・無料広告モデル・SNSの組み合わせが阿呆共鳴現象を産むこと、民主政の推進により政治的アジェンダを民衆に委ねすぎると阿呆共鳴現象によりファシズムに陥り自滅することを述べた。
これを回避するには、新自由主義と阿呆共鳴プラットフォーム(無料広告モデル+SNS)をそれぞれ抑制する必要がある。本記事では新自由主義を抑止する方法を考える。

国家権力の強化による新自由主義への歯止め

阿呆共鳴現象を生み出す要因の一つは新自由主義であるから、これを抑制する必要がある。
新自由主義とは要は、社会の趨勢を市場経済に委ね放置する(レッセ・フェール)ことであるから、これを止めるには資本の論理に歯止めをかける別の社会構造をねじ込む必要がある。歴史上、これを唯一実現できたのは国家である。
国家は暴力装置を独占している。資本的腐敗に侵されていない暴力が資本より強いのは、オリガルヒに支配されていた90年代ロシアをプーチンが暴力により制圧した事例からも明らかである。
プーチンのような専制的手法を取るまで行かずとも、立法および文民統制の効いた軍や警察(=暴力装置)を用いた行政によって、新自由主義を進展を反転させることは可能である。以下、順を追って説明する。

新自由主義を抑える方法

新自由主義を止めるには、これを推進する勢力及び手法を把握する必要がある。分かりやすい例として米国を取り上げよう。

米国において新自由主義を推進する主要勢力は超富裕層である。彼らは企業、政治団体、ロビィスト、買収したメディア等を通じて、政治過程に働きかける。超富裕層が新自由主義を好む思想的・文化的背景は多様だが、いずれによ手段または目的が「さらなる富の蓄積」に集約される点は共通している。

富の蓄積を果たすために超富裕層が実施する主要な政治的行動をPESTにまとめると、以下である:

  • 経済的要因→蓄財効率の強化:減税・規制撤廃・民営化の要請
  • 政治的要因→政治的影響力の強化:政治献金への依存を強める政治過程の維持
  • 社会的要因→文化的権威の強化:金銭的成功を無条件で称賛する社会的風潮の醸成
  • 技術的要因→技術資本の強化:上記全てを効率的に実施するための技術資本の独占

従って、新自由主義を止めるには、上記それぞれに対抗する必要がある。

  • 経済的要因→蓄財効率の低下:増税、規制強化、公営化
  • 政治的要因→政治的影響力の抑制:政治献金の制限または禁止
  • 社会的要因→文化的権威の衰退:教育/公共財無償化を通じた高信頼社会の醸成と拝金主義の排除
  • 技術的要因→技術資本の分散:競争政策による技術資本集積の排除

上記それぞれを詳細に論じるのは長くなるため、ここでは概略に留める。

まず、超富裕層への権力集中を抑える最も直接的な方法は、富の再分配率増加である。これには増税(特に金融所得課税強化)、国家インフラ(特にメディア)の私物化を防ぐ規制強化、公共財提供の営利事業化防止(=公営化)等が挙げられる。民間セクターでの資本効率は当然ながら低下するが、公共財が適切に提供される高信頼社会となることで、私的資産需要が低下し社会厚生関数は増大すると考える。

次に、金銭が政治過程へ与える影響の排除である。例えば米国の大統領選を戦い抜くには数千億円かかり、その中で3万円以下の小口献金は2割程度に過ぎないため、超富裕層に頼る面が多くなり、彼らの意向を無視することは困難である。実際、直近の大統領選で民主党の大口献金者となったリード・ホフマン(ペイパル元幹部/リンクドイン創業者)は、技術資本集積の排除を進める連邦取引委員会長リナ・カーン更迭を要求したと報じられている。こうした介入を防ぐには、政治過程に対する資本の影響力を排除するため、政治献金の制限や禁止が必要である。

さらに、高信頼社会を醸成し拝金主義を排除しなければならない。金銭が米国文化において極端に高い地位を占めるのは、子供向けコンテンツを見ると分かる。次世代へ伝えたい価値観/感覚に基づいて考案されているであろうの米国ヒーローは、多くが富裕層である。アイアンマンやバットマンは(複数)企業を所有する億万長者であり、その点が強調されている。XマンのプロフェッサーXも学校経営者である。自力で金銭的に成功したself-made manであることが民衆ヒーローとして強い訴求力を持つようであるが、これは世界的に稀である。例えば日本の国民的コンテンツで主人公が大金持ちであるケースを私は知らない。悪役にしても、金儲けが悪巧みの動機であることが多く(例: チップとデールの大冒険 レスキューレンジャーズ)、思想犯(自然環境のため人類を滅ぼす等)が多い日本アニメとは全く違う。
子供向けコンテンツでさえ蓄財が重要な位置を占めるため、米国人の思考は利潤追求を中心に回る。金銭は重要であるが、本来的には手段であって目的ではないという発想が弱く、年々弱まっている。
文化は構造的要因(移民で構成される低信頼社会など)により時間をかけて醸成される物であり、逆転させるのは容易ではないが、20世紀中頃の米国は世界有数の高福祉国家であったことに鑑みると、不可能ではない。高信頼社会の便益や公的機関/公共事業の意義を教育カリキュラム改訂により積極的に伝える努力や、諸種の公共財を無償提供し平等な高信頼社会の便益を実際に感じてもらう等して、蓄財の文化的正当性を低下させるのが良い。

最後に、競争政策による技術資本集積の排除である。
技術資本集積による弊害の端的な例が、イーロン・マスクによるtwitter買収および政府役職獲得である。マスクはtwitterを利用しMDM(偽情報・誤情報・悪情報)の拡散、政治的敵対陣営のコンテンツ表示妨害により大統領選に介入し、トランプ勝利に貢献した見返りとして国家財源の私的流用(自身が所有する企業に補助金や案件を流し競合を締め出す)が可能な役職(政府効率化省の長)を得た。一部の人間が(メディアのような)公益性の高い技術資本を独占すると、牽制が効かない中で知財蓄積に公共財を流用するリスクが増大する。
前述した現連邦取引委員会長リナ・カーンは、現在の反トラスト法では巨大テック企業が社会に与える弊害に対処しきれないとして、より多元的な枠組みによる技術資本集積抑制を試みていたが(成果の一つがGoogleのChrome事業分離要求)、超富裕層からの反発が強く(民主党の大口献金者からすら敵視)、トランプ政権下では更迭される見込みである。
資本集積は消費者厚生面では利点もあり、市場支配力基準のみを用いた抑制は望ましくないが、市場競争のみならず政治過程への影響をも加味した多元的な競争政策への転換が必要である。

以上が新自由主義を抑制する主要な方策であるが、上記を執行するには、民間セクターを監督する強力な官僚機構が必要である。
本記事も長くなってきたので、次記事で詳細を(阿呆共鳴プラットフォームの破壊方法と共に)述べる。

  • この記事を書いた人

Y. Middleton

3児の父/海外在住/会社経営/個人投資家/米国公認会計士(USCPA)/公認システム監査人(CISA)/公認内部監査人(CIA)