前編のあらすじ
- Meta社(旧Facebook社)の時価総額は全電力会社とほぼ同じ
- よって、社会的意義を時価総額で図る場合、Meta社は全電力会社と同等の社会的意義を持つ
- しかし、全電力会社が突然消滅したら大量に死者が出て生活レベルが120年以上後退するほどの社会的損失が発生するが、Meta社が突然消滅しても社会は相対的に大して変わらない
- よって、時価総額等の金銭価値は、社会価値を測る尺度としてはゴミと化しつつあるのではないか
(前編のリンク)
金銭価値と社会価値、乖離の原因
金銭価値と社会価値は、何故ここまで乖離したのか?
大きな要因として、以下が考えられる:
- 金銭価値は利潤で決まる
- 利潤は、大きな市場を独占すると最大化される
- 社会的に重要な領域における独占は厳しく制限される
- 社会的に重要でない領域における独占は相対的に許容されている
- よって市場は大きいが社会的重要度が低いと認識される領域で独占を築いた企業の金銭価値が一番高くなる
- 結果として、社会価値と金銭価値が乖離する
考えてみればシンプルな話である。
実際、仮に電力会社の独占が許容されていたら、需要曲線の非弾力性により、Meta社より巨大な金銭価値を生み出しているはずである
(例えば20世紀初頭に石油産業を独占したスタンダード・オイルは、当時の米国上場企業の合計時価総額の6%を占めていたので、現代で言えば450兆円でMetaの3倍である)。
しかし電力や石油等のエネルギー産業において独占を認めると、初等ミクロ経済学の帰結として価格の高騰や供給量が低下し、人が大量に死ぬレベルの社会変化が発生するリスクが高い。よって、独占が厳しく制限される(結果としてスタンダード・オイルは解体された)。
一方Meta社は、(広告)価格を吊り上げたりサービス供給を絞ったところで、死活問題となるほどの影響はない。また広告により収益をあげるのでモデルは供給を絞るインセンティブがなく、消費者に無料でサービスを提供するため、現行の反トラスト法の根幹を成す消費者厚生基準の観点から明確な弊害を示すのは困難である。そのため、これまで独禁法を厳しく適用されてこなかった。
Meta社の創業期に投資したピーター・ティールは、著書Zero to Oneで、「企業を成功に導くには、独禁法で規制されない形で、市場を独占する他ない」と説いているが、Meta社は正にこれを実践したと言える。
但し、Zero to Oneでは規制されない方法として「市場の定義をなるべく広く捉えて伝える」ことを挙げているが、より重要なのは「市場が大きい割に社会的に重要でない領域を独占」することであり、ここが本記事のインサイトである。
では、本問題を解決するにはどうすれば良いか?
消費者厚生基準よりも包括的な観点から独禁法/反トラスト法を捉え直すことである。
これは新ブランダイス主義という形で、既に米国で運用が始まっており、Metaやグーグル等の米国テック企業が反トラスト法違反として連邦取引委員会から訴訟されるようになった。
次の記事にて、詳細に触れたい。
(後日追記:2024年8月、グーグルが反トラスト法違反の訴訟で敗訴)